中山太郎
自民党
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憲法調査会中間報告書まえがき
 衆議院憲法調査会は、日本国憲法について広範かつ総合的な調査を行うため、第147回国会召集日(平成12年1月20日)に衆議院に設置された。本調査会の任務は、この設置目的に従ってその調査を行い、調査の経過及び結果を記載した報告書を作成し、議長に提出することである。

 衆議院憲法調査会は、設置された平成12年1月20日当日に初回の会議を開き、その活動を開始して以来本日に至るまでの間、日本国憲法に関する調査を着実に進めてきた。その経過は、本報告書第3編第1章にまとめているが、まず、「日本国憲法の制定経緯」に関する調査から開始し、次いで、「戦後の主な違憲判決」に関する調査を経て、その後、衆議院解散・総選挙をはさんで、「21世紀の日本のあるべき姿」に関する調査へと進んだ。そして、本年1月の第154回国会からは、この間に浮かび上がってきた様々な論点についてより具体的な調査を行うため、本調査会の下に四つの小委員会を設置し、専門的かつ効果的な調査を行っている。これらの調査活動の中では、憲法学、政治学をはじめとする社会諸科学はもとより、人口論、ゲノム、ITなどの自然科学の分野の有識者をも参考人として招致し、意見聴取・質疑応答を行うとともに、委員間での活発な自由討議を行ってきた。
 他方、この間、国民各層の意見を聴取するために各地で地方公聴会を開催して、国民の憲法に関する生の声を現場で伺うとともに、憲法調査会委員で構成された憲法調査議員団による海外調査を行って、比較憲法的な観点から諸外国の憲法事情についても調査を行っている。本調査会では、これらの調査の成果をも踏まえながら、調査を進めているところである。

 本調査会の調査期間は「概ね5年程度を目途とする」こととされているが、第154回国会をもって、その調査期間の折り返し点となる2年半が経過することとなった。そこで、本調査会はこれまでの調査の経過及びその内容を取りまとめた中間報告書を作成し、議長に提出することとした次第である。
 本報告書においては、第154回国会閉会中の海外調査の成果などもできるだけ取り込むように努めながら、最終的には、第147回国会から第155回国会の平成14年10月24日までの本調査会の活動について収録してある。

 ところで、本報告書は、調査の内容をまとめた第3編第2章及び第3章が中核的な内容をなしている。すなわち、第3編第2章では、調査会及び小委員会での議論の概要はもとより、地方公聴会や海外調査の概要についても掲載しているし、本報告書のかなりの部分を占める同編第3章では、約2年半の本調査会での委員及び参考人等の多様な発言を、日本国憲法の各条章に沿いながらそれぞれの論点ごとに分類して整理している。そこでの主な議論を私なりに総括すれば、次のとおりである。
 まず、「日本国憲法の制定経緯」に関する調査では、現行憲法制定にまつわる歴史的事実の検証を行った。日本は、昭和16年12月に第二次世界大戦に参戦したが、昭和20年8月にポツダム宣言を受諾することによって連合国側に降伏した。これにより、日本占領に関して実質的に最高権限を有するGHQによる間接統治を受けることとなり、この間接統治下で、昭和21年3月にGHQの起草に係る総司令部案を基にした「憲法改正草案要綱」が政府案として発表され、同年4月、衆議院議員総選挙が行われた。総選挙後に召集された第90回帝国議会において、この「憲法改正草案要綱」を条文化した「帝国憲法改正案」が提出され、審議された結果、同年11月に日本国憲法が公布されたのである。このような制定経緯に関する調査を通して、これに対する評価は別としても、日本国憲法の制定にまつわる一連の客観的な歴史的事実については、各委員が概ね共通認識を持つことができたものと思う。
 なお、先般、地方公聴会を開催した沖縄では、昭和47年の本土復帰を迎えるまで、この日本国憲法の実効的な適用がなされてこなかった。この事実を私達は忘れてはならない。
 次に、「戦後の主な違憲判決」に関する調査では、日本国憲法制定以来今日に至るまでの憲法の歩みについて、最高裁判所の下した違憲判決を検証することを通じて、我が国の違憲立法審査制及びその運用実態等を明らかにしたところである。海外調査の結果明らかとなってきた諸外国の憲法裁判所の活動実態と比較するとき、今後、検討しなければならない課題は多いように思われる。
 また、「21世紀の日本のあるべき姿」についての骨太な議論、さらには小委員会での専門的かつ効果的な議論においては、日本国憲法をめぐる様々なテーマについて、多様な観点から議論が行われた。そのような観点の一つに、日本国憲法制定後50有余年を経た今日、我が国を取り巻く国内外の情勢が制定当時には想像もつかないほど大きく変化しており、これを憲法にどのように反映させるべきかどうか、という観点がある。これらの変化の中には、国家の枠組みや人権保障のあり方といった、憲法を支える基本的な考え方に影響を与えるものも少なくないと思われるからである。例えば、安全保障に関する概念は、「国家の安全保障」から、「地域の安全保障」、そして「人間の安全保障」へと大きく変化してきたが、これは我が国の安全保障のあり方、国際協力のあり方に大きく関わるものである。また、科学技術の発展に関して言えば、情報技術の革新は高度情報化社会をもたらしたが、その反面、個人のプライバシーを大きく脅かす側面をも有するようになり、さらに生命科学や医療の分野での技術革新は、人間の尊厳や生命倫理の根幹を揺るがしかねないところまで進展しており、人権保障のあり方に大きな影響を与えるものとなっている。これらの論点については、本調査会において多くの委員、参考人によって指摘がなされているところである。
 また、これまで3度にわたり実施した海外調査では、王室制度を有する国や中立政策を維持してきた国を含む西欧各国、ロシアをはじめ旧共産圏に属する東欧各国、中東に位置するイスラエル、東南アジア各国、我が国の隣国である中華人民共和国及び大韓民国などの憲法事情について調査を行った。印象的であったのは、これらのいずれの国においても、国際社会の変化やそれぞれの国が抱える国内的事情を背景としながら、それらの諸事情の変化に対応して憲法改正に係る論議が国民に提示され、その国民的な論議を通じて、随時、憲法改正が行われているという点である。また、多くの国々で導入されている憲法裁判所において、法律、行政命令を含む法令の合憲性審査を行うことによって権力相互の抑制に資しているだけでなく、直接に国民からの権利救済申立てを受けるなど人権保障の砦としての機能をも果たしている点についても、大いに考えさせられた。さらに、小泉政権の誕生により注目を浴びた首相公選制についても、イスラエルを訪問して政府及び議会の要人、学者等と会談し、その導入及び廃止の経緯、これに対する評価等について詳細な調査を行った。その調査結果を踏まえて、本調査会において、種々の観点から活発な議論が行われたが、首相公選制の導入については、慎重あるいは消極的な意見が多数を占めたように思われる。

 この中間報告書の提出後も、本調査会は日本国憲法に関する調査を引き続き行っていくものであるが、今後とも、「人権の尊重」、「主権在民」、そして「再び侵略国家とはならない」との理念を堅持しつつ、新しい日本の国家像について、全国民的見地に立って、広範かつ総合的な調査を進めていく所存である。
 最後に、本調査会の招致に応じていただいた参考人の方々をはじめ、本調査会の活動にご協力を頂いた関係諸氏に対し、深く謝意を表したい。

平成14年11月1日  衆議院憲法調査会会長 中山 太郎

◆本文については衆議院憲法調査会
 http://www.shugiin.go.jp/itdb_main.nsf/html/index_kenpou.htm
 
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